2009-09マンデチュー上流域調査報告

メンバー
日本側:竹中修平(地球システム科学)・小森次郎(名大/JICA/DGM)
ブータン側:Kharka Singh Ghallay, Phuntsho Tshering (DGM)

調査項目

ブータン氷河湖決壊洪水プロジェクトに関連し、ブータン中部モンデチュー上流域において調査対象地域の絞り込み(危険度評価)、同地域への経路情報収集のため、予備的な調査を行った。

  • 調査対象候補地域の氷河湖と周辺の氷河の視察
  • 調査対象候補氷河湖の深度測定
  • 自記気象観測装置(AWS)の設置
  • 調査対象地域へのアプローチルートの安全確認
  • ルナナ地域(1994年GLOF発生地域)の視察

    調査報告

    調査対象候補地域の危険度評価を行う上での基礎資料(周辺地形,氷河)が得られた.具体的な危険度評価は2010年度の調査に実施予定.

    5つの調査対象候補氷河湖の湖盆図(深度分布図)が得られた.前項も含めこれらにより2010年度の調査の対象地域を選定することができた.また,湖の決壊ボリュームをより具体的に想定することができるので,より精度の高い洪水シミュレーションの試行が可能となった.

    ザナム地域(マンデチュー北西源流)にAWSを設置した.2010年度の調査にて通年の気象データを回収予定.

    実際にGLOFが発生したルナナ地域の氷河湖群と本調査対象地域の氷河湖との対比に関する知見が得られた.

    本調査時のアプローチ経路に関する知見が得られた.これにより,10名を超える専門家が派遣される2010年度の氷河域調査の安全対策を立案することができた.

    ブータン側への協力成果

    氷河湖調査手法の技術移転:
    氷河湖調査のうち測深による湖盆図の作成は,これまでにも日本を含む外国とブータンとの共同調査で実施されているが,従来はDGM側に具体的な技術が残ることなく現在に至ったようである(Yeshi Dorji氏(DGM側プロジェクトリーダー)の話によれば,これまでの共同研究の多くがそのように技術・知識の移転という意識が希薄であった,とのこと).そのような反省に基づき,今回の予備的調査では,プロジェクトマネージャーであるプンツォ氏が測量や湖水深の測定を始めとした野外観測技術を習得することにも重点を置いた.今後,氏が中心となり,氷河・氷河湖の現地調査が進められることが期待される.また,2009年度のDGM独自の予算によって湖水深測定用の代替機材が購入された(ルナナ地域での使用が目的とのこと).これは,湖盆図作成がGLOF危険度評価に対して基本的に重要な情報であり,最新の機材を使えば迅速に行えることをDGMの他のスタッフに対しても本プロジェクト側から示せたためと考えられる.

    氷河学,地質学,地形学的な知見の移転:
    2010年からは地質部門,鉱山部門に続いて氷河部門がDGM内に新しく立ち上がった.しかしそのスタッフの多くは地質学の経験は長いものの,カルマ氏(UNDP/GEFプロジェクトのマネージャー)を除くと雪氷学・氷河学等の知識は少なく,研究対象としての興味も小さい.また,プンツォ氏は,将来氷河部門でカルマ氏に次ぐ立場となると予想されるが,氷河の一般的知識が無く,氷河域の調査も初めてであった.したがって,DGMはこれまで以上に外部からの知識・技術の移転が必要とされている状態である.本調査の約40日間,厳しい環境のもとで行動を共にし,現地での説明や議論を重ねたことにより,フィールドで得るべき情報は何か,氷河災害とは何かといった基礎的な内容から,氷河とは,GLOFとは,といった専門的な内容までが,DGM側の人材に移転されたと考えられる.

    ルナナでのディスカッションを通じて,GLOFに対する意見の交換:
    同行者の一人,ギャレイ氏はルナナでの1994年のGLOFの前後に現地調査を行っており,DGMでも彼しか知らない情報を多く持っている.彼と日本側専門家が,現地にて生の材料を対象として議論ができたことで,双方にとって有意義な知見が得られ,今後のGLOF研究のための新たな基盤ができたと考えられる.

    印象などその他コメント:
    40日近い徒歩による調査だった.大量の降雪による多少の計画変更があったものの,事故もなく調査目的をほぼ達成できた.さらにブータンの奥深い自然を経験し,DGMやエージェントのブータン人スタッフらとも良好な関係を築くことができ,大変意義深い調査だった.

    調査日程
    Sep.09: Thimphu - Punakha - Damji (2315m)
    Sep.10: Damji - Gasa (2770m)
    Sep.11: Gasa - Koena (3250m)
    Sep.12: Chamsa - Taktse Makang (3420m)
    Sep.13: Stay at Taktse Makang (3420m)
    Sep.14: Taktse Makang - Rhodophu (4230m)
    Sep.15: Rhodophu - Narithan (4900m)
    Sep.16: Narithan - Tarina (3990m)
    Sep.17: Tarina - Woche (4160m)
    Sep.18: Woche - Lhedi (3720m)
    Sep.19: Lhedi - Chozo (4070m)
    Sep.20: Chozo - Thanza (4140m)
    Sep.21: Survey at Thanza (4140m)
    Sep.22: Stay at Thanza (4140m)
    Sep.23: Thanza - Drangey (4660m)
    Sep.24: Drangey - Tsorim (5330m)
    Sep.25: Tsorim - Zaram (5040m)
    Sep.26: Survey at Zaram (5040m)
    Sep.27: Survey at Zaram (5040m)
    Sep.28: Survey at Zaram (5040m)
    Sep.29: Survey at Zaram (5040m)
    Sep.30: Zaram lower camp - Zaram higher camp (5090m)
    Oct.01: Survey at Zaram higher camp (5090m)
    Oct.02: Survey at Zaram higher camp (5090m)
    Oct.03: Zaram higher camp - Tsorim (5330m)
    Oct.04: Tsorim - Drangey higher camp (4780m)
    Oct.05: Stay at Drangey higher camp (4780m)
    Oct.06: Drangey higher camp - Tsochena (4950m)
    Oct.07: Tsochena - Jichudramo (5020m)
    Oct.08: Stay at Jichudramo (5020m)
    Oct.09: Yango higher camp (4940m)
    Oct.10: Survay at Yango higher camp - Yango (4830m)
    Oct.11: Yango - Tsongtso Thang (4120m)
    Oct.12: Tsongtso Thang - Tempaytso (4320m)
    Oct.13: Tempaytso - Maorothang (3670m)
    Oct.14: Maorothang - Sephu (2720m)
    Oct.15: Sephu - Nika Chhu - Thimphu


    トレッキングルートの概要(クリックすると拡大)