2010-05ダンフ・地すべり地形調査報告

メンバー
日本側:小池徹・冨田ゆしき(地球システム科学)・小森次郎(名大/JICA/DGM)
ブータン側:Jamyang Chophel (DGM)

調査項目

本研究事業では、氷河湖エンドモレーン内部解析のため比抵抗二次元探査資機材一式(McOHM Profiler4)を供与するが、本機材がモレーン解析のみならず、ブ国の応用地質分野にて幅広く活用されるよう、比抵抗2 次元探査のトレーニング(OJT)を実施する予定である。

本視察は、OJT 実施にあたってのトレーニングサイト候補地の視察を目的とし、1998 年以降断続的な滑動によりWondue-Tsirang 間の通行を阻害しているTshokanaOm 地区地滑り地のトレーニングサイトとしての適性を確認するものである。

調査報告

地滑り地の位置:
TshokanaOm 地滑りは、Wondue-Sarpang 道路区間のDramphu からWondue 側に10km に位置する。Wondue からは、ChancheKhola(橋梁無償工事実施中)を横断して、Dramphu に向けて標高を上げる、つづら折りの坂の途上にある。
Wondue-Sarpang 道路は、PunatshanChhu 水力発電所建設にあたっての物資輸送路となり、今後ジェネレータ等の大型資材の搬送に使用されることから、DoR により道路の整備・拡張が続けられている。また、現在計画されているDochuLa トンネルが整備されれば、Thimphu-Puntsholing 間に継ぐ物資輸送道路となる。DoR としては、DANTAC によらないインド=ブータン交易道路として重要整備区間に位置付けている。


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地滑り概要:
TshokanaOm 地滑りは、1998 年以降地滑りの滑動が活発化し、2001 年には、DGM による詳細調査が実施されている。Deep Sheeted Landslide に分類される、いわゆる本報における『地滑り』に相当するものであり。斜面崩壊と異なり、突発的な土砂崩落ではなく、長期間にわたり継続的に土塊が移動するタイプの地滑りである。適切な表流水対策と滑り面深度に応じた安定解析と土工が必要となる。
もともと本地区は過去滑動した地滑り地であるが、地滑り地末端斜面を道路開削したために安定性が失われ、再滑動を始めたものと考えられる。本地滑り地の後背は、さらに大規模な地滑り地となっており、対処療法的に崩落土砂の除去を続けていれば、後背地滑り地の再滑動を誘発し、上位の家屋や農耕地への被害が危惧される。
現在DoR により表流水対策や法面対策が実施されているが、依然として、毎年雨季には滑動が活発化し、道路閉鎖されているとのこと。


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OJT サイトとしての適性:

【比抵抗二次元探査の適性】
地滑り対策を実施するうえでは、安定解析のための滑り面深度の特定が不可欠である。比抵抗二次元探査は、地滑り面形状を面的に把握するうえで最も効果的な探査手法の一つであり、OJT サイトとして適切と判断される。

【探査結果の照合】
比抵抗二次元探査は、地盤内の比抵抗値を測定するものであり、地盤の力学的物性値を直接探査するものではない。よって、ボーリング調査等の現位置試験結果と照合することが不可欠である。本地滑り地ではボーリング調査は実施されていないが、地滑り末端にて基盤岩と移動土塊との地質境界が確認できることから、探査結果との照合が可能である。

【各種地滑り対策工の視察】
本地滑り地では、DoR Sarpang 支局の技師の指導により、表流水対策を含め、様々な抑制対策工が実施されている(ブータン国内では異例といえる)。これらについてOJT 実施時に各対策施設の用途・効果、および現況での課題等についての説明を行い、地滑り対策工に関するDGM スタッフの知識向上に貢献できる。


地滑り中央部を横断する道路状況。乾季に入り舗装されているため現況では変状は目立たない(クリックすると拡大)


地滑りブロック頭部に設置された表面排水工。コンクリートのため浅層水排水の効果はない。流末処理はなく、土塊内へ流入。(クリックすると拡大)


簡易土留工(しがら工)と通水式簡易柵の組み合わせによる効果的な法面崩壊対策。(クリックすると拡大)


裸地の植生工。本年雨季の崩壊を受けなければ、効果的に機能する可能性あり。(クリックすると拡大)


地滑り地末端擁壁およびフトンカゴ工。末端押さえ盛土の効果を狙ったものとみられるが、高さは2m 程度。(クリックすると拡大)


同左擁壁+フトンカゴ工の変形。コンクリート基礎の基盤岩への着底が不十分なため、土塊による押し出しが生じている。(クリックすると拡大)

調査日程
5/12 着任 Paro-Thimphu 間の道路視察 (OJT サイト選定)、DGM オフィス (主要スタッフ挨拶)、JICA 表敬訪問
5/13 DGM・トレーニング計画に関する打合せ、社会調査打合せDDM(内務省防災局)訪問、社会調査に関する説明
5/14 Thimphu 上流Begana サイト(水力発電所計画地)視察(物理探査試験地)、研究論文作成
5/15 Tshirang 県地滑り地(OJT サイト)視察準備(DGM)
5/16 資料整理ほか
5/17-18 Tsirang 県TshokanaOm 視察
5/19 調査報告作成、JICA 協議、DDM 早期警戒システム打合せ
5/20 DoE水文観測データ・早期警戒システム情報収集、DoR 打合せ 技術移転トレーニング計画説明資料
5/21 技術移転トレーニング計画説明(DGM 会議室)