2010-05ブータン東部社会調査報告

メンバー
日本側:竹中修平・佐藤匡史(地球システム科学)
ブータン側:Sonam Lhamo (DGM), Prakash Rai (DDM)

調査項目

本調査は,GLOFsプロジェクトの成果として期待されるハザードマップの作成,早期警戒システムの設計に資する基礎情報を得ることが目的である.

調査対象地域のトンサ,シェムガンのマンデチュー流域,ブムタンのチャムカールチュー,タンチュー流域,プナカ,ワンデューポダンのプナサンチュー流域において,1)ゾン,ゲオク等の地方行政機関,2)学校,3)地域住民に対して,それぞれ異なる内容の質問表を用意し,聞き取り(アンケート)調査を行った.

アンケートの質問項目は,専門家側が用意したものを元にカウンターパートを交えて議論し,決定した.現場での聞き取り調査は主としてカウンターパートが行った.これにより,言語の問題や回答者側の心理的抵抗が相当程度取り除かれたと考えられる.

質問内容は,防災に対する基本方針,情報伝達体制,人口(地方行政機関のみ),収入,携帯電話等通信手段の有無(地域住民のみ)などの基礎社会情報,災害履歴,防災知識,他援助団体の活動,等である(詳細は添付資料参照).

以上の聞き取り調査に加えて現地ではあらかじめ既知の,あるいは聞き取りの結果判明した降雨洪水,GLOFによる被災地点の視察を行った.また水位観測点では,洪水時のものを中心として通年の水位データを収集した.

調査報告

計画した全ての地域で聞き取り調査が行えた.調査した被災地域とアンケートの集計結果の一部を添付資料に示した.以下はその概要である.

GLOFsプロジェクト対象地域であるマンデチュー流域では,ジザム(トンサ・ゾンカク),ティンティビ(シェムガン・ゾンカク)の一部地域において,GLOF発生時の被害が予想される.また現在建設中で2015年稼動予定の水力発電所予定地も,被災の履歴がある.

チャムカールチューのチャムカール上流(ジャカル・ゾンカク)では被災履歴があるが,いまだに電力の供給はなく,固定電話,携帯電話とも使用できない地域があるため、災害時の情報連絡網の脆弱さが浮かび上がった。

他地域と比較するとシェムガン・ゾンカクの地域住民の収入は低く,同時に携帯電話等の通信手段の所有率も低い.それに関連すると思われるが、住民の防災に対する意識も低くなっている。

1994年にGLOFによって、被災したプナサンチュー流域(プナカ・ゾンカク,ワンデューポダン・ゾンカク)では行政・住民とも防災意識が高く,災害時の情報連絡網も整っている.

ブータン側への協力成果:
ブータン側カウンターパートの二人については,準備段階(アンケート質問項目の策定)から結果の取りまとめ(一部)と発表まで,可能な限り調査の全過程を経験してもらった.
現地調査の最終段階で,専門家とカウンターパートで行ったディスカッションでは,ブータンで生まれ育ったカウンターパートの両名が,日本人である専門家とともに同じ視点から自国の地域や防災体制を観察しようとしたことが伺えた.

印象などその他コメント:
今回の調査では10以上の学校を訪れたが,学校そのものがよく手入れされ,教師達の熱心なのが印象的だった.教師達は自分の生徒の生活実態や通学経路,危険地域をよく把握しているので,地域防災上,学校により積極的な役割を果たさせることができるのではないか.